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金沢地方裁判所 昭和28年(わ)179号 判決

本店所在地

金沢市材木町一七番六号

大同製綱株式会社

右代表取締役

番匠博之

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官沢江俊昭出席のうえ審理を遂げ、つぎのとおり判決する。

主文

被告人会社を判示第一の事案につき罰金一五〇、〇〇〇円に、判示第二の事案につき罰金六〇〇、〇〇〇円にそれぞれ処する。

訴訟費用中証人竹田乙吉に支給した分および証人山崎辰次に昭和四三年六月一九日に支給した分は全部被告会社の負担とし、その余は二分し、その一を被告人会社の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社は、本店を金沢市備中町六六番地の一に有し、漁網用トワイン・ロープ等の製造販売を業とし、昭和一七年三月以降沖元市郎が代表取締役として会社事業の一切を統轄していたものであるが、同人は会社利益を隠匿して法人税を免がれようと決意し、会社売上の一部を帳簿に記載せずに脱落させてその所得を隠蔽する等の不正の方法により、

第一、昭和二六年二月八日、所轄金沢税務署に対し、昭和二四年一二月一日から昭和二五年一一月三〇日までの事業年度(以下昭和二五年度という)の法人税確定申告書を提出するにあたり、同年度の所得が三、〇一三、七〇三円あり、その税額は一、〇五四、七九五円であるのに、三、二二八、〇五七円の欠損である旨虚偽の申告をなして、法人税一、〇五四、七九五円をほ脱し、

第二、昭和二七年一月三一日、所轄金沢税務署に対し、昭和二五年一二月一日から昭和二六年一一月三〇日までの事業年度(以下昭和二六年度という)の法人税確定申告書を提出するにあたり、同年度の所得が一二、二〇九、六九七円あり、その税額は四、四一八、四九五円であるのに、所得額は四五五、八四六円、税額は一五九、五三〇円である旨虚偽の申告をなし、法人税四、二五八、九六五円をほ脱したものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実につき

一、第一回公判調書中、被告人会社代表者河村市太郎の供述記載

一、第五回公判調書中証人番匠博之の供述記載

一、同人の検察官に対する昭和二八年九月一六日付供述調書

一、法務事務官の昭和二八年三月三〇日付 証にかかる登記簿謄本

判示第一の事実につき

一、第五回公判調書中証人番匠博之の供述記載

一、第六回公判調書中証人高橋常信の供述記載

一、第七回公判調書中証人京田義正の供述記載

一、第八回公判調書中証人寺中次吉の供述記載

一、第九回公判調書中証人桜井次男、同寺中次吉の各供述記載

一、第一二回公判調書中証人田島寅吉の供述記載

一、第一五回、第一六回各公判調書中証人山崎辰次の各供述記載

一、第一六回公判調書中証人藤田徳二の供述記載

一、当裁判所の証人山崎辰次、同石田宗達、同新谷篤太郎、同小西之助、同中沢太郎、同釣谷勧、同木島保、同江守清治、同中村好雄、同井口浩造、同中野熊蔵に対する各尋問調書

一、京田義正作成の昭和二八年一月一二日付上申書添付の別紙

一、番匠博之(昭和二七年一一月一八日付)、大 、中村好雄、石田宗達(昭和二七年九月一〇日付)、新谷篤太郎、小西浩之助、清水昌夫、中沢善太郎、釣谷勧、木島保、江守清治、田島寅吉、井口悦造、大東武夫、多田実、中野蔵作成の各上申書

一、番匠博之の検察官に対する供述調書三通

一、金沢税務署長作成の昭和二八年五月二五日付証明書(記録一〇三ないし一二三丁分)

一、更正決定決議書(記録一二八ないし一五一丁分)

一、金沢税務署長作成の昭和二八年三月二〇日付証明書

一、山崎辰次作成の「銀行取引調査結果報告」と題する

一、同人作成の「決算諸表について」と題する書面(記録一五四ないし一六一丁分)

一、押収してある元帳 (昭和二九年押第一六号の三ないし六)、第二回積算記録(同号の一一)、原簿(同号の一四)、発信性(同号の一六の八)、第一回精算記録(同号の一九)、入庫伝票(同号の二一)、未収金明細書(同号の二二)、入出金伝票(同号の二四)、「原料使用量 予定控」と する書面(同号の三〇)

判示第二の事実につき

一、第五回公判調書中証人番匠博之の供述記載

一、第一二回公判調書中証人田島寅吉の供述記載

一、第一三回公判調書中証人高尾忠次郎の供述記載

一、第一五回、第一六回各公判調書中証人山崎辰次の各供述記載

一、第一六回公判調書中証人藤田徳二の供述記載

一、当裁判所の証人山崎辰次、同石田宗達、同新谷篤太郎、同小西浩之助、同表一二に対する各尋問調書

一、寺西次郎の検察官に対する供述調書

一、京田義正作成の昭和二八年一月一二日付上申書添付の別紙

一、番匠博之(昭和二七年一一月一八日付)、田島寅吉、高尾忠次郎、石田宗達(昭和二七年一〇月二八日付)、新谷篤太郎、小西浩之助、一二・八反田啓太郎作成の各上申書

一、金沢税務署長作成の昭和二八年五月二五日付証明書(記載一二四ないし一二七丁分)

一、更正決定決議書(記一七一ないし一九五丁分)

一、山崎辰次作成の「銀行取引調査結果報告」とする書面

一、同人作成の「決算諸表について」と題する (記録一六二ないし一七〇丁分)

一、押収してある元 四 (昭和二九年押第一六号の三ないし六)、原簿二(同号の七および一四)、出荷伝票三冊(同号の一七の一、同号の二三の二、三)、第一回積算記録(同号の一九)、物品伝票三冊(同号の二六)

(争点に対する判断)

一、簿外売上高について

検察官は被告人会社の簿外(除外)売上高は、昭和二五年度において一三、三二六、七九八円、昭和二六年度において一七、五五一、六三六円である旨主張するが、当裁判所に提出の証拠により、その金額を確定できるのは、別表(一)、(二)の各簿外売上表掲記の取引先および売上高に関するもののみであり(但し、昭和二六年度簿外売上先のうち、売上数量のみが確定でき、その金額を知ることのできない宇野謙二、笠井四郎、山岸、桜井次男に対する各売上分については、前掲各証拠により昭和二五年、昭和二六年両年度を通じて最低の簿外売上単価とみとめられる単価すなわち、一ポンドあたり、マニラ・ロープにつき九一円、サイザル・ロープにつき五〇円、トワインにつき九一円をそれぞれの単価として援用して各売上金額を算出した。)、その余の検察官主張の取引先および売上高についてはこれを確定するに足る証拠がない。したがつて、右簿外売上高は昭和二五年度において一〇、五三一、四七八円、昭和二六年度について一四、二五九、七七四円である。

二、沖元市郎からの引継原料、製品について

検察官は昭和二五年度において、被告人会社が沖元市郎から引継を受けた原料、製品として、一二、〇一六、八八一円相当を計上すべき旨主張するに対し、弁護人は、右引継原料、製品の存在を否定している。

そこで判断するに、別掲証人番匠博之(第五回)、同高橋常吉(第六回)、同寺中次吉(第八回、第九回)同桜井次男(第九回)の各供述記載、番匠博之の検察官に対する昭和二八年九月一六日付、同年一二月一七日付各供述調書、金沢税務署長作成の昭和二八年三月二〇日付証明書、「原料使用量製作予定控」と題する書面(昭和二九年押第一六号の三〇)を総合すると、つぎの事実が認められる。すなわち、沖元市郎は従来から被告人会社の代表取締役であると同時に個人としても漁業用資材の販売業を営んでいたところ、その個人営業の目的は当時統制下にあつた漁業用資材のチケツトを入手するための窓口とすることにあつたが、昭和二五年一月一日からその統制が徹廃されることとなり、個人営業を継続する必要がなくなつたため、同日付をもつてこれを廃止し、個人営業に関する一切の権利義務を被告人会社に譲渡した。当時沖元市郎はその品目数量等は明確でないが、相当多量のマニラ麻関係の製品を被告人会社の倉庫等に保有していたが、被告人会社は昭和二五年ごろから昭和二七年にかけてこれらの原料、製品のうち一部は受注品にふりあてて出荷し、一部はほぐして原料として別の製品に形を変えて販売したものである。そして、当裁判所の証人山崎辰次に対する尋問調書によれば、被告人会社が右のように沖元市郎から引き継いだと認められる原料、製品の数量についてはこれを直接知り得る資料がないため、昭和二七年九月八日調査日現在の実在庫数量を基準とし、これと昭和二四年一二月一日から右調査日までの被告人会社の公表ならびに簿外売上数量との合計からロープの製品歩留り率を九七パーセント、トワインの製品歩留り率を九四パーセントとして算出した同期間の正規使用原料による製品出来上り高、会社計上の製品仕入数量ならびに簿外の製品仕入数量を控除する方法により、個人営業廃止当時の沖元市郎個人の保有数量を二六一、七二九ポンドと推計算出し、これをもつて昭和二五年度に被告人会社が沖元市郎から引継を受けた原料、製品としたというのである。しかも右供述記載によれば、右計算の過程においては、その期間の原料、製品の目減りを計算に入れ、被告人会社にとつてはむしろ有利な計算となつていることまた右二六一、七二九ポンドの内訳については被告人会社側の計算に基づき七〇、〇〇〇ないし八〇、〇〇〇ポンドはマニラ、サイザル麻の製品または原料であり、一八〇、〇〇〇ないし一九〇、〇〇〇ポンドは日本麻を主体にした製品であることを推定し、日本麻、マオランの単価については取得価額を勘案して当時の時価により、マニラ、サイザル麻製品の単価については不良品だつたために将来他の原料に混入して使用する予定であるという被告人会社側の主張により、当時の統制(マル公)価格により、右引継原料、製品の価額を一二、〇一六、八八一円と算定したものであることが認められるのであつて、右数値は合理的なものと認めることができる。

これに対し、弁護人は、被告人会社が沖元市郎から引継を受けた原料、製品は全く存在せず、二〇、七九七、〇一〇円相当の製品を各年度期間中に簿外の闇価格で仕入れたものである旨主張する。しかし、被告人会社が沖元市郎の従来保有していた相当数量の原料、製品を使用し、あるいは販売していたことは前掲証拠から全く疑問の余地のないところであり、また前述のごとく漁業用資材の統制は昭和二五年一月一日から撤廃となつたのであつて、その後に闇価格で仕入れたとする弁護人の主張は容易に首肯しがたいし、さらに弁護人主張の簿外仕入れに相応する裏口預金の出金事実については、前掲「銀行取引調査結果報告」と題する書面に照して否定的に判断せざるを得ない。右認定に反する第三〇回公判調書中証人小谷清の供述記載は、沖元市郎からの引継がないという被告人会社の主張をもとに計算した結果の陳述にすぎず、第三一回公判調書中被告人会社代表者番匠博之の供述記載は前掲各証拠に照らし直ちに採用しがたく、その他弁護人の主張を裏付けるに足りる適確な証拠がない。

以上の事実を総合すると、結局被告人会社は、検察官主張のごとく昭和二五年度において沖元市郎から一二、〇一六、八八一円の原料、製品の引継を受けたものと認めるのが相当である。

三、期末棚卸高について

弁護人は、昭和二六年一一月三〇日現在の棚卸在庫のうち、二三、六九三、六二八円相当は売残り不良品であり、被告人会社では昭和二七年、昭和二八年の両年度に消却しているが、これらは無価値なものであるから按分し、昭和二五年度において一〇、七二五、〇〇〇円を、昭和二六年度において一二、九六八、六二八円を各期末棚卸高から控除すべきである旨主張する。

しかし、前掲証人桜井次男(第九回)、同寺中次吉(第八回、第九回)の各供述記載および「原料使用量製作予定控」と題する書面によれば、被告人会社では昭和二七年当時も古い製品をほぐして新しい原料に混ぜて製品を作つていたことが認められるし、また金沢税務署長作成の昭和二八年五月二五日付証明書二通、第一一期決算報告書(昭和二九年押第一六号の三一)、「大同製網株式会社の資料追加提出の件」と題する書面(同号の三三)によれば、被告人会社においては昭和二五年度および昭和二六年度ともその公表帳簿ならびに法人税申告書において右売残不良品について何らの評価損も計上せず、単に昭和二六年度決算において期末棚卸につき合計二三、六九三、六二八円を売残り不良品として計上し、昭和二七年一一月三〇日決算においてはこれを期首棚卸高として計上し、さらに同期末在庫として一七、七二六、二三一円を計上していることが認められるのであり、しかも更正決定決議書(記録一七一ないし一九五丁分)により認められるごとく被告人会社がいわゆる同族会社であることからみて右売残り不良品につき評価損を計上することを隠蔽する必要もないと考えられること等の事情を考慮すると、右売残り不良品が無価値であつたとする弁護人の主張は採用しがたい。

四、税額について

以上の事実ならびに前掲各証拠により被告人会社の修正損益計算書を作成すると別表(三)、(四)の各修正損益計算書に表示のとおりとなる。これによれば、被告人会社は昭和二五年度において三、〇一三、七〇三円、昭和二六年度において一二、二〇九、六九七円、の各所得をあげたことが明らかである。そこで昭和二五年度分の被告人会社の法人税額は右所得額(但し、一〇〇円未満の端数は切り捨てる-昭和三二年法律第一〇三号による改正前の昭和二五年法律第六一号国庫出納金端数計算法五条一項)に、旧法人税法一七条一項(昭和二九年法律第三八号による改正前のもの)所定の税率を適用すれば、一、〇五四、七九五円となる。また昭和二六年度における法人税額を算出するに、右所得額(但し、一〇〇円未満の端数切り捨て)に同様の税率を適用すると四、二七三、三六〇円となるが、さらに前掲更正決定決議書(記録一七一ないし一九五丁分)によれば、被告人会社は同法七条の二第一項(昭和二九年法律第三八条による改正前のもの)の同族会社であり、同年度の積立金は二、四三〇、五〇〇円であることが認められるから右積立金に対し前出同法一七条一項所定の税率を適用すると一四五、一三五円となるから、結局同年度分の被告人会社の法人税額は合計四、四一八、四九五円となる。

(法令の適用)

被告人会社の判示各所為は、いずれも旧法人税法五一条(昭和四〇年度法律第三四号による改正前のもの)、同法四八条一項(昭和三二年法律第二八号による改正前のもの)に該当するので、それぞれ所定の罰金額の範囲内で被告人会社を判示第一の事実につき罰金一五〇、〇〇〇円に、判示第二の事実につき罰金六〇〇、〇〇〇円にそれぞれ処し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により証人竹田乙吉に支給した分および証人山崎辰次に昭和四三年六月一九日に支給した分は全部被告人会社の負担とし、その余は二分し、その一を被告人会社に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小沢博 裁判官 林輝 裁判官 石垣君雄)

別表(一) 昭和二五年度簿外売上表

〈省略〉

〈省略〉

別表(二) 昭和二六年度簿外売上表

〈省略〉

別表(三) 昭和二五年度修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別表(四) 昭和二六年度修正損益計算書

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〈省略〉

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